CTAO:宇宙を彩る“青い輝き”の正体

さらなる宇宙観測へのビジョン

CTAOの望遠鏡群。CTAOがカバーする20 GeV〜300 TeVの全エネルギー領域を観測するため、3種類の望遠鏡が必要となる。

© Gabriel Pérez Díaz, IAC

約20年前、先見性を持つ科学者たちは、地上設置型ガンマ線望遠鏡 (H.E.S.S.、MAGIC、VERITAS)の技術的限界を押し広げる計画を立ち上げました。これらの望遠鏡は、大気に到達したガンマ線によって発生する粒子シャワーを捉えます。超高エネルギー粒子は「チェレンコフ光」と呼ばれる青い閃光を生み出し、天体物理学の最も難解な謎に迫るための手がかりとなります。研究者たちは、感度と精度の両面でこれまでにない技術を実現しようと考えました。こうして、従来の望遠鏡を数・規模・技術のすべてにおいて超える次世代望遠鏡 Cherenkov Telescope Array Observatory (CTAO) の構想が誕生したのです。

 

現在、CTAOは多国間プロジェクトへと成長し、世界10か国以上の出資者および国際政府機関の支援を受け、世界最大かつ最高感度のガンマ線天文観測所となる予定です。北半球と南半球の両方に合わせて60基以上の望遠鏡を展開し、感度は現行装置の最大10倍、そして20 GeVから300 TeVにおよぶ前例のないエネルギー領域で高エネルギー宇宙を探索することが可能になります。この独自の観測能力により、宇宙における高エネルギー粒子が天体システムの進化に与える影響や、ブラックホールなど宇宙で最も極端な天体の性質、そしてダークマターの探索やアインシュタインの相対性理論の検証にまで挑戦できます。さらに CTAO は、同種の観測施設として世界で初めて、提案制に基づく“オープン”な観測所として運用され、取得した高次データやソフトウェア製品を一般公開する予定です。

 

CTAOは2018年の欧州研究インフラ戦略フォーラム (ESFRI)のロードマップにおいて “Landmark (基幹施設)” に認定され、ASTRONETロードマップ (2022–2035)の地上観測インフラ分野でも最優先プロジェクトとして選ばれました。

 

こうした巨大プロジェクトを成功させるためには、革新的技術が不可欠です。多くの関係者が長年にわたり、さまざまな課題に対処するためのアイデアや試作機を提案してきました。浜松ホトニクスは、科学的議論の初期段階から参加しており、世界をリードする自社技術である 光電子増倍管 (PMT) をもってこの競争に挑みました。ここから、仕様に応じた製品のカスタマイズや繰り返しの試験・改良を要する長い旅が始まったのです。さらに、浜松ホトニクス独自の革新的デバイスであるMPPC (シリコンフォトマル/SiPM) といった、新たな検出技術の開発にも取り組むことになりました。

鍵を握るのは“青い光”

チェレンコフ効果の模式図

© R. White (MPIK) / K. Bernlohr (MPIK) / DESY

CTAOの科学:ガンマ線の放射から発見へと至るプロセス

© CTAO

CTAOの特長は、最高エネルギー領域のガンマ線に対する高い感度にあります。ガンマ線バースト (GRB)は超新星爆発など、宇宙で最も激しい環境で生じる現象であり、そこで生成されるガンマ線は可視光のおよそ1兆倍ものエネルギーを持っています。これらのガンマ線は地表には到達しませんが、大気を通過する際にサブ原子粒子のカスケード (空気シャワー)を引き起こします。粒子が大気中を下降するとエネルギーを失い、チェレンコフ放射を発します。このうちの紫外領域から可視光 (特に青色成分)が地上の望遠鏡に備えられた高速カメラで検出されます。

 

CTAOの望遠鏡は、観測するエネルギー領域に応じてサイズや台数が異なります。まず、大型ミラーが大気中で発生した青いチェレンコフ光を集光し、それを高速PMTカメラシステムで検出します。光のフラッシュは極めて弱く、継続時間も数十億分の1秒と非常に短いため、この高度な技術がなければ観測は不可能です。PMTはこれらの光フラッシュを捉え、低ノイズながら広いダイナミックレンジを備えた増幅段で信号を増幅し、電子信号として読み出します。

 

初期段階の検討では、CTAO全体を実現するにはおよそ20万本のPMTが必要と見込まれていました。この膨大な数量は、カスタム仕様を満たしつつ均質な品質を維持するという、極めて大きな課題を意味していました。PMTは多くが手作業を伴うガラス製品であり、組み立てにも高度な技能が必要です。そのため、すべての段階で数万単位のPMTを製造し試験することは、莫大な時間とコストを要します。さらに、空気シャワーが生むごく微弱な光を捉えるためには、高い量子効率を備えた高感度PMTが不可欠であり、この要求はPMTの最大利得の制約とも密接に関わっています。また、観測ではタイミング精度も極めて重要で、わずかな信号遅延でもデータの欠損や歪みにつながります。したがって、PMTは高速で、かつ効率的な光電面を備えた小型デバイスである必要がありました。

 

加えて、PMT内で発生するアフターパルスは誤信号の要因となるため、これを最小化することも課題でした。こうした問題の根本原因を特定することにより、製造工程における材料と処理の理解が深まり、さらなる改良につながりました。

 

EUのFP7プログラムにより支援されたCTAOの準備段階では、多くの研究機関や大学、そしてその研究室が浜松ホトニクスと連携し、PMTの性能改善に取り組みました。一方で、PMT技術に伴う課題に対応するため、半導体技術を用いた高感度光検出器MPPC (Multi Pixel Photon Counter)* の開発も求められました。MPPCの形状・寸法・マイクロセルサイズについては、完全オーダーメイドの六角形構造から、より一般的な 75 × 75 µmセルをもつ正方形タイプまで検討されました。必要とされる技術は当時存在していませんでしたが、研究者と浜松ホトニクスが協力し、最適解を模索していきました。

 

* MPPCは浜松ホトニクスが開発するシリコンフォトマル (Silicon Photomultiplier)です。

 

数十年にわたる協力が育んだ技術革新

CTAO南サイトの完成予想図

© CTAO

約20年にわたる協力の中で、研究者と浜松ホトニクスはPMTとMPPCの両方について、設計の改良を絶えず推し進めてきました。

 

PMTの設計評価は何度も見直され、調整されてきました。例として、一般的なバイアルカリ光電面に比べて量子効率を向上させたSBA (Super Bialkali)光電面 の開発があります。また、時間応答性の利点を維持しつつ、利得を抑えるために1インチPMTを新設計のPMTに置き換える案が検討され、必要な利得が減ったことからダイノードを1段削減する設計も実現しました。

 

一方、MPPCは、使用部品が少なく軽量で、大量生産に適した半導体製造プロセスで作られるため、スケールの大きい生産において高いコスト効率を実現しています。年月を経てMPPCの技術は飛躍的に向上し、例えば浜松ホトニクスは トレンチ構造の追加 によりセル間クロストークを大幅に低減し、偽信号の発生を抑えることに成功しました。また、パルス特性も大きく改善されています。

 

現在、CTAOの望遠鏡が開発の最終段階に入りつつある中で、数千におよぶPMTとMPPCが製造・試験されています。CTAOから得られる観測結果は、遠方銀河や宇宙に存在する極限的な粒子加速器の理解に新たな光をもたらすことが期待されています。プロジェクトが完成すれば、これまでにない夜空の姿が明らかになり、ひいては私たちの宇宙観そのものに新たな視点がもたらされることでしょう。

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