XENONnT実験: 発見の可能性を大規模に拡張する

10 kg から 10 トンへ

ご提供:INFN Gran Sasso National Laboratory (LNGS)

20年以上前、少数の科学者たちが集まり、ダークマターの正体を明らかにするための実験を立ち上げました。比較的小規模に始まったこの実験は、いまでは世界で最も注目されるプロジェクトのひとつへと発展しています。

 

科学者たちは、液体キセノンを満たしたデュアルフェーズ型タイム・プロジェクション・チェンバー (TPC)を用いた試作検出器XENON10を開発しました。この検出器は、液体キセノン中での核反跳という極めて稀な相互作用を捉えることで、弱く相互作用する巨大質量粒子 (WIMP)としてのダークマター候補の探索を目的としたものです。当時のキセノン使用量はわずか 15 kg 程度でしたが、実験は段階的に大きくなり、2008〜2016年には160kg、さらには2015〜2018年には3.2トンへと規模が増大しました。

 

そして現在では、最新世代の実験となるXENONnTが約8.6トンものキセノンを使用しています。この飛躍的な拡大は、同じ志を持つ研究機関が協力してきた結果であり、宇宙最大級の謎に挑むための強い意志が形となったものです。私たちの知る限り、ダークマターはこれまで重力以外の相互作用では観測されていません。

 

浜松ホトニクスは、フォトニクス分野の技術革新を牽引する企業として、実験初期からコラボレーションを支え、最初の光電子増倍管 (PMT)を提供しました。これらのPMTは、謎めいた相互作用を捉えるために不可欠な要素でした。

 

この驚異的な規模拡張には、性能と品質の両面で多くの課題が伴いました。ほぼ10トンもの液体キセノンを扱う世界最先端の実験として、求められる技術水準は飛躍的に高まっていたのです。

過酷な条件への挑戦

© XENON Collaboration/設置されたPMTアレイ下部

© XENON Collaboration/PMTスケールモデルと比較した人々

© XENON Collaboration/PMTアレイ

実験は、イタリア・ローマの北東約120 kmに位置するGran Sasso国立研究所 (LNGS)に設置されています。LNGSは世界最大規模の地下実験施設のひとつです。ダークマター粒子との相互作用を捉える可能性を高めるためには、宇宙線による背景放射を大幅に抑える必要があります。このため、実験施設は1400 mの岩盤の下に置かれています。

 

地下に設置された円筒形のTPCは、大部分が液体キセノンで満たされ、上部には薄い気相のキセノン層が存在します。また、TPCには2つのPMTアレイが搭載されており、1つは気相側の上部に、もう1つは液体層の下部に配置されています。

 

これらのPMTは一般的なモデルではありません。この極限環境では、極めて高い感度と低い内部放射能を兼ね備えた光検出器が必要となります。TPC内の温度は165 K (−108°C)と非常に低く、稀な粒子相互作用を観測するには理想的ですが、同じ環境を再現してPMTを試験することは非常に難しいという課題があります。

 

浜松ホトニクスは過去にも同種の実験向けに極低温対応PMTを提供した実績がありますが、今回の課題はさらに厳しく、現場と同じ環境で試験できない状況の中で、過酷な条件下でも理想的な感度を実現する解決策を見出す必要がありました。

継続的な試行が理想的な解決策を生む

© XENON Collaboration/XENONnTのPMTアセンブリ

浜松ホトニクスが技術を進化させることができたのは、コラボレーションを通じた取り組みがあったからこそです。同社は、XENONnTの研究者と密接に連携し、高度なコミュニケーションを重ねることで、実験の厳密な要件に適合する技術へと改良を加えていきました。ヨーロッパ各地の研究者と日本のエンジニアが協力し合い、世界の両端をつなぐ形で、理想的なPMTの設計と試験が実現されたのです。

 

当初、PMTの一部は極めて厳しい環境条件のため、期待どおりの動作を示しませんでした。実験は非常に高感度であるため、PMTの材料そのものから生じるごく微弱な発光 (マイクロライト)でさえノイズを引き起こすことがわかりました。これを抑制するため、浜松ホトニクスのエンジニアはPMTの材料を変更し、さらに内部に機械的バリアを追加してスパークを完全に排除しました。

 

PMTの内部放射能は、継続的な改善を通じて大幅に低減されました。これは、最も低放射能の部品を厳選し、XENONチームの承認を得る前に徹底的に試験し、最終的にPMTのベース設計へ組み込むというプロセスを繰り返すことで達成されました。

 

多くの年月にわたり、研究者とメーカーが絶えずフィードバックを交換し、実験規模と要求水準が拡大する中で改良を積み重ねていきました。性能評価やスクリーニング試験を通じて寄せられたフィードバックのおかげで、専用PMTは段階的に強化され、技術的限界へと迫るレベルにまで到達しています。

 

現在、XENONコラボレーションは、そのコンセプト、理論背景、観測されるバックグラウンド、そして技術的構成に関する多数の論文を発表しています。さらに次の、より大規模な実験もすでに議論されており、より高い性能を達成するための取り組みが進行中です。各実験が進化を続けるように、それを支える技術もまた進化し続けます。そしていずれ私たちは、協力を通じて宇宙の奥深くに隠された謎を解き明かすことができるでしょう――。

 

XENONプログラム開始当初から浜松ホトニクスと協力しており、XENONnTで使用している現在のセンサーには非常に満足しています。これらのセンサーは、単一光子を高効率かつ極めて低い内部放射能で観測することを可能にしています。

— Laura Baudis氏(XENON実験および将来のDARWINプロジェクトに従事)

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